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フィッシングで預金や証券口座を勝手に使われたら――その被害は補償されるのか

消費者 / 法律解説

銀行やクレジットカード会社、証券会社をかたるメールやSMSから偽のサイトへ誘い込まれ、IDやパスワードを入力してしまった結果、身に覚えのない送金がされていた、あるいは保有していた株式が勝手に売られて別の銘柄を買われていた、というご相談をお受けすることがあります。

まず結論から申し上げますと、こうした被害については、被害の内容やご自身の過失の有無などによっては、金融機関から補償を受けられる可能性があります。もっとも、補償は法律によって一律に保証されているわけではなく、被害の類型――預金のカード払戻しなのか、インターネット・バンキングによる送金なのか、証券口座の乗っ取りなのか――によって、根拠となる仕組みが異なります。また、IDやパスワードの管理に落ち度があったと判断されると、補償が減らされたり、受けられなかったりすることもあります。率直に申し上げれば、必ず全額が戻るとは限らない、というのが実際のところです。

キャッシュカードの不正払戻しと預金者保護法

偽造されたキャッシュカードや、盗まれたキャッシュカードを使ってATMから預金を引き出された場合については、「偽造カード等及び盗難カード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払戻し等からの預貯金者の保護等に関する法律」、いわゆる預金者保護法が定めを置いています。2006年(平成18年)に施行された法律で、個人の預金者を対象としています。

偽造カードによる払戻しは原則として無効とされ、全額の回復が基本となります。盗難カードの場合も、速やかな通知、金融機関への十分な説明、警察への届出などの要件を満たせば、原則として補償の対象となります。ただし、金融機関が善意・無過失であり、預金者に過失があったことが証明された場合には、補償額が4分の3に減額されます(同法第4条・第5条)。

預金者の故意がある場合や、金融機関の善意・無過失と預金者の重大な過失が証明された場合などには、回復・補償が認められないことがあります。暗証番号を他人に教えた、カードに書き記した、他人にカードを渡したといった事情があっても、その経緯を含めた個別の判断が必要です。盗難カードの補償対象期間は、原則として金融機関への通知日の30日前以降ですので、早期の連絡が重要です。

参考:預金者保護法(e-Gov法令検索)

ネットバンキングの不正送金は銀行の補償方針を確認

ここで注意していただきたいのは、この預金者保護法が対象としているのは、偽造・盗難カードによる機械式の払戻し等であって、インターネット・バンキングを通じて行われる不正な送金は、この法律の直接の対象ではない、という点です。フィッシングによってIDやパスワードを盗まれ、ネットバンキングから勝手に送金されてしまうという、近年増えている類型は、法律そのものではなく、全国銀行協会の申し合わせに基づく各銀行の補償によって対応されているのが実情です。

全国銀行協会は、2008年(平成20年)に「預金等の不正な払戻しへの対応について」という申し合わせを行い、預金者保護法の趣旨を踏まえて、個人の顧客がインターネット・バンキングで身に覚えのない不正な送金の被害を受けた場合にも、預金者に過失がなければ原則として補償し、過失があるときは個別に対応する、という考え方を示しています(なお、法人の顧客については、2014年(平成26年)に別途、補償の考え方が示されています)。したがって、ネットバンキングの被害についても、ご自身に落ち度がなければ銀行から補償を受けられる可能性がありますが、法律上当然に補償されるというわけではなく、各銀行の対応や、預金者の過失の有無によって結論が変わり得る点には、留意が必要です。

参考:全国銀行協会「預金等の不正な払戻しへの対応」「法人向けインターネット・バンキングにおける補償の考え方

証券口座の乗っ取りと不正取引の補償

そして、2025年(令和7年)に大きな問題となったのが、証券口座の乗っ取りです。実在する証券会社をかたる偽のサイトなどでIDやパスワードを盗み取り、本人になりすまして口座へ不正にログインし、保有していた株式を勝手に売却して、別の銘柄を買い付ける、といった被害が相次ぎました。証券口座の場合は、預金と違って口座の中で株式の売買が行われるため、被害の把握のしかたや回復の考え方が、預金の場合とは異なってきます。

この点について、日本証券業協会は、2025年(令和7年)5月2日に、証券会社10社による申し合わせを公表し、フィッシング等による不正アクセスの被害について、各社の約款の定めにかかわらず、一定の補償を行う方針を示しました。もっとも、実際にどこまで補償されるかは、被害に遭われた方のID・パスワードの管理の状況や、証券会社が講じていた注意喚起などの対策も踏まえて、個別の事情に応じて判断されるとされています。

この申し合わせは、2025年1月以降に発生した被害について、参加した10社が示した方針です。すべての証券会社・被害について同一の補償を保証するものではありません。対象期間、補償の方法や割合、申出の期限などは、ご自身の取引先が公表する最新の案内を確認することが大切です。

参考:日本証券業協会「フィッシング詐欺等による証券口座への不正アクセス等による対応について(10社申し合わせ・2025年5月2日、PDF)

被害に気づいたら、まず行うこと

身に覚えのない送金や取引を見つけたときには、そのまま様子を見ず、次の対応を進めてください。

  1. 金融機関へすぐに連絡する。メールやSMS内のリンクを使わず、公式サイトや手元の書類で確認した窓口に連絡し、口座・取引の利用停止と被害の調査を求めます。
  2. 警察へ届け出る。届出の日時や相談先を記録し、金融機関が求める手続や提出資料も確認します。
  3. 記録を消さずに保存する。メールやSMS、すでに手元にある偽サイトの画面、取引履歴、金融機関とのやり取りを残します。証拠を取るために偽サイトへ再アクセスする必要はありません。

これらの記録は、被害の経緯や、ご自身の過失の有無を説明するための手がかりになります。補償には申出の期限などの条件があるため、連絡を先延ばしにしないことが大切です。

「必ず取り戻せます」とうたって高額の費用を求める業者にもご注意ください。弁護士でない者が、報酬を得る目的で被害回復の交渉などの法律事務を業として行うことは、法律上の例外を除き、弁護士法第72条に触れるおそれがあります。被害回復を名目とした二次被害にも注意が必要です。

補償に納得できない場合の対応

預金やネットバンキングの被害であれば、まずは取引のある金融機関に対して補償を求めることになります。金融機関が過失を理由に補償に応じない場合には、どのような経緯で被害に遭ったのか、ご自身にどのような落ち度があったといえるのかを、具体的な事実に即して主張し、必要に応じて交渉や裁判上の手続で争っていくことになります。

証券口座の被害についても、同様に、まずは証券会社に対して補償を求め、その対応に納得ができない場合には、証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC)による裁判外の紛争解決の手続を利用することや、訴訟を検討することが考えられます。

参考:証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC)

不正送金先の口座が判明している場合には、警察や送金先の金融機関にも連絡し、口座の凍結などを求めます。振り込め詐欺救済法の対象となる犯罪被害で、口座に資金が残っているなどの条件を満たせば、所定の手続を経て被害回復分配金の支払を受けられることがあります。口座が凍結されても全額が戻るとは限らず、申請期間内に支払申請をする必要があります。

参考:金融庁「振り込め詐欺等の被害にあわれた方へ

いずれの手段をとるにしても、時間が経つほど資金は引き出され、記録も失われていきます。早く動くことが大切です。

費用と見通しは、被害の内容に応じてご説明します

費用や見通しについては、被害の内容や金額、金融機関が補償に応じるかどうかによって大きく異なりますので、一律に申し上げることは難しいところです。ご相談の際に、想定される流れとあわせてご説明いたします。フィッシングによる被害は、ご自身が特に不注意だったわけではなくても、巧妙な手口によって誰にでも起こり得るものです。身に覚えのない送金や取引に気づかれた際には、ご自身に落ち度があったのではないかと抱え込まず、まずはお早めにご相談いただければと思います。

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